漫画好きの読書感想文(仮)

読書感想文、書かないと罰金されます。

カフカ「変身」 感想

初代ポケモンユンゲラーの図鑑説明は恐らくこの小説が元ネタでしょう。

あるあさのこと。 ちょうのうりょく しょうねんが ベッドから めざめると ユンゲラーに へんしん していた。

図鑑説明がカフカの「変身」で名前は「ユリゲラー」のもじり。

未だに不条理を強いられている難儀なポケモンです。ユンゲラーの救済頼む。

こんばんは毒虫です。

 

最近、ビジネス本ばかり読んで、考え方が偏ってきたので、久しぶりに小説を。

色々な思想をインプットするのは良いんですが、支配されてはいけない。

影響を受けすぎるのも、受け過ぎないのもよろしくないので、リフレッシュがてらに。

昔、薄っぺらいから、という理由だけで購入したカフカの「変身」です。

グレゴール・ザムザが朝目覚めると自身が巨大な毒虫に変わってしまったことを発見するあれです。

 

初めて読んだ時は海外文学が苦手で、読みにくく、ただただ描写が気持ち悪いとしか思いませんでしたが、今になって面白さに気づきました。

昔は横文字の名前が覚えられなかったり、海外の生活様式が分からなかったんですね。

家族の中でグレゴールしか働いてないのにお手伝いさんおるって日本人からすると意味わからん。どういう状況なんや。

まあ、そういうもんだと思って読めば気になりません。

 

ほとんどの訳文では虫や毒虫と表現されていますが新訳では「ウンゲツィーファー(生け贄にできないほど汚れた動物或いは虫)」という原文のドイツ語のまま表現されている方もいらっしゃるようですね。

私の読んだ新潮文庫版では「鎧のように堅い背、アーチのように膨らんだ褐色の腹」という描写があるので甲虫っぽく感じますが、蠢く無数の足の様子はムカデっぽくもあり、なんというか未知ですね。

なんの虫かどうか、という考察は本意ではありません。

カフカ本人も「表紙に虫の絵は書かないでくれ」と注文していたようですしね。

日本語の優れている点の一つにカタカナで全ての言語を表現できる、というものがあるので、ぜひ新訳の「ウンゲツィーファー」という名前で進めていきましょう。

 

変身は3つの章から成り立っており、wikiを見れば大体の話の流れが分かります。

変身 (カフカ) - Wikipedia

簡単に書くと

①目覚めると虫(ウンゲツィーファー)に。家族はびっくり。

②妹から世話を受ける。父から制裁も受ける(リンゴ)。

③古傷(リンゴ)が傷み、死亡。家族は将来に希望を持ち旅立つ。

誤解を招きそうですが短くまとめるとこんな感じですかね。

 

この小説の面白いところはグレゴールが虫(ウンゲツィーファー)になったことについて、誰も全く疑問を感じず、ただただ現状を受け入れるところにありますね。

病院で診察したり、警察に行って事情を説明したりはしません。

部屋にいた虫(ウンゲツィーファー)がグレゴールだという保証もないのに、家族はグレゴールとして受け入れ、絶望しながらも生活を続けます。

絶望するも、排除することはせず、食事や掃除などの世話をしてきたことについては愛情すら感じます。

不条理にも虫(ウンゲツィーファー)に変身してしまったグレゴールですが、虫になりながらも家族を本気で愛しています。

特に妹のグレーテには音楽学校に行けるようにお金を貯めたり、かなりの愛情を持って接していたようです。

でも、グレゴールは思考はできるが、動き回る以外に表現はできません。

家族も意思の疎通を諦め、ただ生きているから世話をする。

愛情があるとも感じられるが、あくまでグレゴール視点の話。

家族は義務感、責任感だけで虫(ウンゲツィーファー)の世話をしていたのかもしれませんね。

 

朝起きると毒虫になる、そんな変化は日常生活ではありえませんが、自分自身が緩やかに、小さく変化はするものです。

人間の細胞は半年で材料が全て変わるとも言われてますし、一日一日の積み重ねが将来の自分を形作ります。

毎日同じ日々を過ごしていても変わらないなんてありえません。

そういう意味では私たちも長い年月をかけて「変身」していくものかもしれませんね。

 

また、不意に事故や病気で身体や頭脳に変化が訪れることもあります。

認知症老老介護などは社会問題にも発展していますし、朝起きて自分の身体を自由に扱えない様子は麻痺や身体的な障害とも取ることができます。

自分自身が好きなように動けなくなる、表現することができなくなる。

自分だけは大丈夫と考えるには可能性が高く、世間でも大きな問題になりすぎています。

100年前に書かれた小説ですが個人的には現代の福祉の現状と重ねて見てしまいます。

ハンデキャップを受け入れ、個性として尊重する世の中は素敵ですが、それを実現するのには多くの人が考え方を学び、行動に移すことが大切です。

「変身」は差別主義な小説ではありませんが、グレゴールの家族は虫(ウンゲツィーファー)になったグレゴールを最終的に排除するべきという考えを露わにします。

虫になったグレゴールを一人の人間として受け入れることができなかった家族。

原因不明ながら虫になってしまったグレゴール。

私たちにできるのは一日一日を大切に生き、よく学んで、行動することと、家族や友人に愛情を注ぎ、自分自身も幸せに生きることですね。

 

世界中の人間を愛することは難しいですが、グレゴールのように自分の周りの人を愛してみてください。

世界中の人が隣人を愛することができればこんな世界でも生きやすくなりませんか。

できない人も日々の考え方を少し変えたり、することでより良い方向に「変身」できたらと思います。